ひとばん寝かせたカレーはとてもおいしい

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大学の喫煙所

窓際の席に腰掛けると、喫煙所が見えた。

私はタバコは趣味としていないが、喫煙所は大好きだ。特に大学の喫煙所には性癖さえ感じるくらいに好きだ。

自分と別世界にいる人たちのようすを見ることができるから。

さっそく、男女が喫煙所にやってきた。どういうわけか、男の子2人に女の子1人。男の子は知らないけど女の子の方は結構かわいいと思う。髪は腐ったクリームパンのクリームのような色に染まっていて、洒落た服やアクセサリも身に纏っているようだ。

彼らは喫煙所の塀の外のベンチに腰掛けると、さっそくモクモクしはじめた。慣れた手つきで箱から紙の棒を取り出し、手で風をよけながら火をつけて、気持ちよさそうに会話を楽しみながら煙を吸ったり吐いたりしている。

そもそも私が喫煙所に惹かれるのは、そこにいる人間がやっていることの意味わからなさだ。葉っぱを粉々にしたものを紙に巻いて、火をつけて燃やした煙を吸う。そして息を吐く。こんなに意味の分からないことを、人類は流れるようにやってのける術を開発した。とてもクレイジーだ。喫煙所にいる人たちは、あそこに集って特別な呼吸をしていて、それが終わると、再び生活に戻っていく。クレイジーなことをさも当たり前かのようにやっている人たちを見るのが面白い。

今日は秋晴れで、天気は快晴。青空の下で学友とともに楽しむタバコはさぞ楽しいものだろう。

私にはタバコを買う金もなければ、…いや金はあるが、まずは外でペットボトル飲料を気兼ねなく買えるようになることが先だろう。そして異性の友人もいない。今後電灯よりも明るい色に髪を染めることもないだろう。したがって女の子と一緒にタバコを楽しむなどという行為は、少なくとも今の時点で、私の人生のベクトルともっともかけ離れているといっても過言ではない。私がどうやっても到達できない境地にいる存在、自分ともっとも離れた世界の住人の行動が簡単にみられる場所。それが大学の喫煙所である。

いま、さまざまな研究機関が地球外生命の探索に日々取り組んでいる。宇宙の遥か彼方を飛び続けるボイジャー号には、異星人に向けてのメッセージである、俗にいうゴールデンレコードが積まれている。人類はまだ見ぬ異形の存在に興味を持ち、巨額の投資をしているのだ。

そんな中、私は窓際の席に腰掛けるだけで、ただ一方的に異形の存在を眺めることができる。自分とまったく違う世界の人たちがどんな振る舞いをしているのか、私は何のコストもリスクもかけることなく眺めることができる。人類は未だ異形の存在にすらたどり着けないというのに、私はまるで全知全能の神になったかのような、そんな気がしてくる。

そんなことを考えていたら、彼らはアイコスを吸い始めた。ええ!?二刀流なの!?アイコスは様にならないからやめてほしいと、私は常に虚空に向かって主張している。アイコスを吸うためにタバコを始めたわけではないだろうに。アイコスなんて、ずんぐりむっくりしたあのチョコレートがもっこりコーティングされたちょっと高いポッキーのシルエットと完全に同じではないか。コップに刺さっていないストローを咥えているようで無様としかいいようがないので、そんなものとっとと手放してほしい。

アイコスを吸い終わった彼らは、途中で合流した男の子2人としばらく談笑した後、じゃれ合いながら喫煙所(正確には喫煙所の近く)を去ってしまった。私は不学ゆえに、いくら力を振り絞っても単純な計算問題すら解くことができないが、彼らにはそんなのお茶の子さいさいだと思う。きっとあの場で唐突になんかのマクローリン展開をさせても、5つの頭で議論しながらやすやすと解いてしまうのだろう。タバコで酸素が欠乏しているであろう彼らの頭にすら簡単に敗北してしまう自分を思うと、なんだか情けなくなってくる。

私にとって、すべての人はもとから異形の存在だ。異形度という何かを導入して評価するとすれば、異形度が高ければ高いほど傍観していて面白いような気がする。私は自分の面白さのため、すべての人にさらに私から遠い存在になってもらいたいので、できればすべての人類がタバコを吸ってくれるといいと思っている。まぁそれは極端だが、私と違う点はぜひ私に見せてほしい。いや見せることはない。普段通りに過ごしておいてもらえれば、私が気が向いたときに適当にそれを見て、私が適当なことを言って、何かを思ってそれで終わりでいい。

窓からフレームアウトした彼らの今後の予定と人生に思いを馳せながら、私も作業に戻ることにする。締めがあまりにも雑だと感じたが、レポートの締め切りも控えているので、これくらいにとどめておく。