問1
(a)
解答
解説
統計力学において、熱平衡状態にある系が特定の状態をとる確率は「分配関数」を用いて計算できます。この問題では、さらに高いエネルギー状態は無視できるとあるため、基底状態と第1励起状態の2つだけを考える2準位系として扱います。
計算を簡単にするため、エネルギーの基準を基底状態に設定しましょう。
* 基底状態 (): エネルギー
、縮重度
* 励起状態 (): エネルギー
、縮重度
次に、与えられた公式に従って1原子あたりの分配関数 を計算します。分配関数は、すべての可能な状態の「統計的重み(縮重度
ボルツマン因子)」を足し合わせたものです。
それぞれの値を代入すると、以下のようになります。
求めたいのは、原子が励起状態 (エネルギー
の状態)に存在する割合
です。これは、その状態の統計的重みを、全体の和である分配関数
で割ることで求められます。
(b)
解答
解説
(a) で求めた式に具体的な数値を代入して計算します。単位をSI単位系(ジュールやケルビン)に統一してから計算するのが鉄則です。電卓が使えない試験を想定した、近似のテクニックがポイントになります。
ステップ1:単位の換算と代入の準備
まず、エネルギー差 を電子ボルト (
) からジュール (
) に変換します。
次に、ボルツマン因子の指数部分を計算します。ここを と置きます。
ステップ2:式の近似 が約
と大きい値になるため、
はゼロに近い非常に小さな値になります。したがって、(a)で求めた式の分母にある
は、
に対して無視できるほど小さいと近似できます。
ステップ3:指数の手計算(近似値の活用)
ここがこの問題の最大の山場です。 を手計算で求めるために、問題文にある
というヒントを使います。底を
から
に変換しましょう。
これを用いると、
指数の掛け算を実行します。
これを扱いやすい形()に分解します。
ここで、 という数字に注目します。ヒントの
と見比べると、
であることに気づけるように作問されています。つまり、
と近似して計算を進めます。
自然対数の底 の累乗は、物理の近似でよく使うマクローリン展開
を使って近似できます。]y = 0.4] を代入して2次の項まで取ると、
ステップ4:最終計算
以上の近似をつなぎ合わせると、
となります。
最後に、これに を掛けて
を求めます。
問題の指示は「有効数字1桁」なので、四捨五入して最終的な答えを出します。
問2
(a)
解答
解説
まずは、系がとりうる「状態の数」を数え上げます。
問題文より、元々 個あった格子点に加えて、原子が表面に移動したことで
個の新しい格子点(と欠陥)が生まれました。
したがって、全格子点の数は 個になります。
この 個の格子点に対して、
* 原子が入っている場所: 個
* 空席(格子欠陥)の場所: 個
となります。原子同士は区別できない(どの原子がどの格子点にいても同じ状態とみなす)ため、状態の数 は、「
個の格子点の中から、欠陥となる
箇所の場所を選ぶ組み合わせの数」に等しくなります。(※原子が入る
箇所を選ぶと考えても全く同じ結果になります)
数学の組み合わせの記号 を使って計算します。
(b)
解答
解説
目標は、エントロピー を計算し、最終的に
を ]\frac{n}{N}] だけを使った式に変形することです。
#### ステップ1:エントロピーの定義と対数の分解
まずは (a) で求めた状態数 を代入し、対数の割り算・掛け算の性質(
,
)を使ってバラバラにします。
#### ステップ2:スターリングの近似式の適用
問題文の指示通り、近似式 を①式の3つの項それぞれに適用します。
*
*
*
これを①式に代入します。マイナスの符号に気をつけてください。
]
カッコを外して整理します。
ここで、 となり、邪魔な項が綺麗に消えてくれます!これが第一のチェックポイントです。
#### ステップ3:式全体を で割る
問題は「 を求めよ」なので、②式の両辺を
で割ります。
これで係数部分は の形になりました。あとは
と
の中身をいかにして
の形にするか が最大のポイントです。
#### ステップ4:対数の中身を無理やり に変形する(ここが最重要!)
③式の第一項にある の中身を、無理やり
でくくります。
これを使えば、対数の性質()で以下のように分解できます。
この結果を③式に戻します。
#### ステップ5:展開して を消去する
前のカッコを展開します。
すると、式の最初と後ろの方にある となり、
が一つ消えます。
見やすくするために順番を入れ替えて、残った の項を
でくくります。
#### ステップ6:最終仕上げ
最後に、対数の引き算の性質()を使います。
これを代入すれば、すべての変数が で表された美しい式が完成します!
解答
(c)
解答
*(※ を仮定して
と近似しても正解になる場合がありますが、上記がより厳密な解答です。)*
解説
熱力学の関係式を用いて、ミクロな状態数から求めたエントロピーを、マクロな温度 と結びつけます。
ステップ1:連鎖律(チェインルール)を用いた関係式の変形
与えられた関係式は です。
また、エネルギーは なので、両辺を
で微分すると
となります。
ここで微分の連鎖律を使うと、
つまり、 より、
という関係が導かれます。
ステップ2:エントロピー を
で微分する
(b)の途中で求めた の近似式を使います。(
より計算が楽です)
これを で微分します。(積の微分法
に注意)
ステップ3:温度 と結びつけて
について解く
ステップ1とステップ2の結果を等式で結びます。
両辺の をとって対数を外します。
最後に について整理します。
*(補足:現実の結晶では、欠陥を作るエネルギー は熱エネルギー
より十分に大きいため、分母の
は無視でき、よく教科書に載っている
というアレニウス型の式になります。)*
問3
(a)
解答
解説
まずは与えられた公式通りに、1つの原子の分配関数 を求めます。
問題文より、エネルギー状態は と
の2つです(通常、磁場と同じ向きに揃う方がエネルギーが低く安定なので
をとります。符号が逆でも最終結果は同じになります)。
これを系のヘルムホルツ自由エネルギー の公式に代入するだけで完了です。
(※大学の講義によっては、双曲線関数 を使って
と書くことも多いです。どちらも正解です。)
(b)
解答
(※双曲線関数 を使って
と書いても構いません)
解説
熱力学関係式 を使って、(a) で求めた
を温度
で偏微分します。積の微分法
を使って慎重に計算します。
次に、分配関数 を
で微分します。合成関数の微分に注意してください。
となるので、
これを①式に代入します。
第二項の の部分が
とすっきりまとまります。最後に
を元の形に戻せば解答の式になります。
(c)
問題の条件は(低温極限)です。
計算を見やすくするため、 と置きます。
条件より (
は 1 より十分に大きい)となります。したがって、
や
はゼロに近い非常に小さな値になります。
(b)で求めたエントロピーの式を を使って書くと、以下のようになります。
この式の「前半の項」と「後半の項」を、それぞれ別々に近似していきます。
#### ステップ1:前半の項 の近似
カッコの中は が圧倒的に大きく、
は極小です。そこで、一番大きい
を外にくくり出します。
対数の性質 を使って分解します。
ここで、第2項の に注目します。
はゼロに極めて近い小さな値(これを
とします)なので、マクローリン展開の1次近似
が使えます。
これにより、 となります。
よって、前半部分は次のように近似できます。
#### ステップ2:後半の分数部分 の近似
こちらも、分母と分子を圧倒的に大きい で割って、小さな値
だけの式にします。
これも と置いて、
の形だと考えます。]y] は非常に小さいので、](1+y)^{-1} \simeq 1 - y] という近似を使います。
]y] () でさえ極小なのに、その2乗である
(
) はさらに桁違いに小さいので無視(切り捨て)します。したがって
だけが残ります。
よって、後半の分数部分は次のように近似できます。
#### ステップ3:合体して展開する(ここが感動ポイント!)
(A) と (B) の結果を、元の の式に戻します。
これを展開してみましょう。
お気づきでしょうか? 一番大きかったはずの と
が見事に打ち消し合って消滅します!
もし最初から「 は小さいからゼロとしちゃえ」と乱暴な近似をしていると、
になってしまい、物理現象が消え去ってしまいます。微小な
の項まで丁寧に残して計算したからこそ、この結果が得られるのです。
残った項をまとめます。 でくくります。
#### ステップ4:最後の仕上げの近似
(C) の式のカッコの中 に注目します。
大前提として でしたよね。例えば
だとしたら、
となります。物理の近似では、このような場合「]200] に対して
は十分に小さいので無視できる」と考え、
と近似してしまいます。
という極小の項は掛け算で全体にかかっているので無視できませんが、足し算の
は大きな
に吸収されてしまうイメージです。
これを適用すると、
最後に を元に戻せば完成です。
(d)
解答
解説
「外から熱が入らないようにして…ゆっくり減少させる」という記述は、熱力学において「可逆断熱過程=等エントロピー過程」であることを意味します。つまり、変化の前後でエントロピー の値は変わりません。
ここで、(b) で求めた厳密な の式に注目してください。
数式の中に含まれる変数は、すべて というカタマリ(比率)としてしか登場していませんよね。
ということは、エントロピー が一定に保たれるためには、そのカタマリである
の比率が一定に保たれなければならない、ということになります。
したがって、以下の関係が成り立ちます。
これを について解き、条件
を代入します。
磁場を1/10に弱めると、温度も1/10に下がる。これが極低温生成で用いられる「断熱消磁」の原理です。(c) の複雑な式を使わなくても、(b) の式の形から一瞬で答えを見抜ける美しい問題でした。