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プロキシマ・ケンタウリに生命は存在するか?

論文要旨

 昨今の宇宙開発・宇宙科学は、一層の広がりを見せている。過日には、元ZOZO社長である前澤友作氏が、SpaceX社の民間有人宇宙船Starship号の座席を全て購入したとして話題になった。宇宙科学分野では、史上初であるブラックホールの撮影成功や、JAXA小惑星探査機「はやぶさ2」の、サンプル・リターンの成功のニュースなどが記憶に新しい。これらのニュースが世間を賑わすことは、かつて研究者だけに見えていた宇宙という存在が、より身近になっているということを示している。

そんな中、つい先日飛び込んできたこのニュースに、筆者は大いに胸を躍らせた。それはプロキシマ・ケンタウリ(以下「プロキシマ」と呼称)の方向から、謎の電波信号が届いたというニュース[1]である。これは、プロキシマに、電波を発信することができる知的生命、いわゆる宇宙人が存在するかもしれないという、まるでSF映画のようなニュースである。科学の発展により、このような、かつては夢の中でしか起こり得なかったようなことが現実になる日は近いだろう。

本稿では、プロキシマについて簡単に説明した後、プロキシマの持つ惑星系に生命、そして知的生命が存在することができるのか、その可能性について検討する。

 

 

 第1章 序論

本章では、プロキシマと、プロキシマの惑星系、プロキシマb・cについて簡単に解説する。

 1.プロキシマ

 プロキシマとは、太陽系から4.2光年の位置に存在する赤色矮星である。太陽系から一番近い恒星として知られ、また注目の対象となることも多い。ケンタウルス座アルファ星の三重連星の中で最も小さく、その大きさと質量は太陽の1/7程度である。放出されるエネルギーは太陽の1/1000ほどしかない。明るさは11等であり、地球から一番近い恒星ながら、その姿を肉眼で観測することはできない。現在確認されているうちでは2つの惑星を持っており、その惑星系はプロキシマに近いところからそれぞれプロキシマb・cと呼ばれる。

 

2.プロキシマの惑星系

2-1.プロキシマb

 プロキシマbは、現在確認されている中ではプロキシマに一番近い軌道で公転している。プロキシマとプロキシマbの間の距離は約750万kmで、太陽系に換算すると水星軌道の内側になるほど、主星(プロキシマ)に近い軌道で周回している。惑星の質量は地球の約1.3倍で、地球と同じ岩石惑星である。プロキシマのハビタブルゾーンに位置しているため液体の水が存在する可能性があり、地球外生命の存在に期待が持たれているハビタブル惑星である。

 

2-2.プロキシマc

 プロキシマcは、プロキシマbよりも外側の軌道を周回するプロキシマの惑星である。分光観測によって存在が予測・確認された。MIT Technology Review [2]は、プロキシマcについて、『正確な質量は分からないが、推定では少なくとも地球の5.8倍の質量があることになり、岩石主体の「スーパーアース」か、ガス主体の「ミニ海王星」の可能性がある。赤色矮星プロキシマ・ケンタウリの軌道を5.2年で周回していると見られ、ほぼ間違いなく居住可能性はない。温度は−233.15℃と見られる』としている。

 

第2章 プロキシマの環境

 本章では、プロキシマとその惑星系について、その環境が生命の発現・生育・進化に適しているのかどうかを論じる。

 

まずは生命存在の基本条件を、阿部(2015)の主張[3]によって、

  1. 液体の水・有機物の存在と、エネルギーの供給
  2. プレートテクトニクスによる温室効果ガスの安定供給と、地表温度の安定
  3. 大陸の存在

と単純に仮定する。そしてこの3要件を満たした場合には、必ず生命が発生するものとする。阿部は、地球外生命がまだ確認されていないことから、生命のモデルとして地球に存在する地球型(炭素型)生命を前提とした議論を行っている。従って、異形の生命や、地下や海底における生命の存在可能性については、阿部の定義では検討の範囲外であることに留意しておきたい。

 

プロキシマの惑星系の中で、生命存在の可能性が考えられるのはプロキシマbのみであり、プロキシマcには生命存在の可能性は極めて低い。生命の発生に必要な有機物はプロキシマb・cともに存在が確定していないが、プロキシマcはプロキシマから離れた位置を公転しており、プロキシマのハビタブルゾーンには入っていない。よって、表面には液体の水が存在せず、水が存在しても個体の氷になっている可能性が高い。

ハビタブルゾーンから離れていても、液体の水が存在する場合がある。土星の衛星エンゲラドスは、太陽のハビタブルゾーンの外にあるのにもかかわらず、氷の表面の下には液体の水の海があることがほぼ確実視されている。これには、「潮汐加熱[4]」と呼ばれる現象が影響している。また、長寿命放射性元素の崩壊熱も、恒星以外の熱源(エネルギー源)となる場合がある。

プロキシマcの中心星であるプロキシマは比較的小さい天体であり、プロキシマからある程度の距離を周回しているプロキシマcに十分な潮汐加熱が発生しているということは考えづらい。放射性元素の崩壊熱を考慮しても、生命生育に十分なエネルギーが供給されていることはないものと考えられる。従って、本論ではプロキシマbにおける生命存在の可能性のみを考えるものとする。

 

1. 液体の水・有機物の存在と、エネルギーの供給

1-1.液体の水の存在

そもそも生物に液体の水が必要である理由について、阿部は、生命は代謝を行って物質を体外・体内に出入りさせているため、物質を出入りさせる媒質として液体が必要である。中でも水は物質として宇宙にありふれており、物質的な振る舞いにも優れ、媒質として最も適しているため、生命の存在には水が必要であると述べた。

プロキシマbはプロキシマのハビタブルゾーン内に位置しており、液体の水の存在要件を満たしている。現時点ではプロキシマbに関して、水の存在を裏付ける証拠は見つかっていないが、ここではプロキシマbの表面には液体の水が存在していると仮定する。

 

1-2.有機物の存在

 有機物は、生物の身体を構成する材料となる物質であると同時に、代謝によって取り込まれたり、取り出されたりする物質である。

プロキシマbに関して、現時点で有機物の存在を明確に示す証拠は見つかっておらず、有機物の存在を確定させることはできない。プロキシマ系を太陽系に当てはめ、プロキシマ系が太陽系形成に関する古典的標準モデル[5]で形成されたと考えると、プロキシマbが有機物を持つことのハードルは、そこまで低くないものと推測される。換言すれば、プロキシマ系の成り立ちが仮に太陽系と同じであるならば、プロキシマbも地球と同じように、有機物を含んだ小天体の衝突によって有機物を獲得することが難くないということである。ここでは、プロキシマbの表面に有機物が存在すると仮定する。

 

1-3.エネルギーの供給

 エネルギーは、そのまま生命の活動のエネルギーとなる。言うまでもなく、エネルギーは中心星であるプロキシマからの光エネルギーが、安定して十分に供給されるものと考えられる。

 

2. プレートテクトニクスによる温室効果ガスの安定供給と、地表温度の安定

 プレートテクトニクスとは、惑星におけるプレート運動理論のことである。プレート運動には、二酸化炭素をはじめとするガスを、大気中から地中へ、地中から大気中へ循環させる働きがある。プレート運動の必要性について阿部は、プレート運動によって温室効果ガス(二酸化炭素)が大気中と地中を循環することで、地表の温度が長期間に渡って安定して調整されると述べている。さらに阿部は、地球以外の惑星にプレート運動が存在しないことについて、液体の水によって硬いプレートが軟化される可能性を指摘した。液体の水が存在すればプレート運動が発生すると考えると、ここまでの仮定より、プロキシマbにプレート運動が存在する可能性を仮定できる。

 

3.大陸の存在

 大陸が存在することで、二酸化炭素石灰岩として大陸に固定され、二酸化炭素の循環量が抑制される。また、生命の必須元素であるリンが海中に供給される。リンが海中に供給されるためには大陸が存在し、その岩石が風化して海に流れ込まなければならず、ここで大陸の存在が重要となる。

 プロキシマbにおける大陸の存在に関しても、明確な証拠がなく、これを確定させることはできない。やや安直ではあるが、プロキシマbに大陸が存在すると仮定し、生命存在の基本条件3つがすべて満たされたことで、プロキシマbに生物が存在しているとする。

 

4.プロキシマbの過酷な環境と、生命の存在可能性

 上に示した仮定によってプロキシマbに生命が存在するとしても、実際には生命の安定した存在は難しいのではないかと考えられる。

 プロキシマbはプロキシマに近く、プロキシマの影響を受けやすくなっている。アルマ望遠鏡は、2017年3月24日、プロキシマの巨大なフレアを観測した[6]。このフレアは太陽で観測された最大のフレアより1000倍大きかったという。プロキシマbが仮に大気や磁場を持っていると仮定しても、これほど大規模なフレアによる強い紫外線照射を主星の近くで受ければ、地表の生命が生存することは難しいだろう。大気や水そのものがフレアによって剥離してしまう可能性も考えられる。

また、アルマ望遠鏡は10時間の観測で、2分間フレアを観測した。これは、このフレアと同程度、あるいはそれ以上の規模のフレアが、宇宙の時間規模で考えると頻繁にプロキシマで起こっているということを意味する。頻繁に大規模なフレアが発生し、その影響を大きく受ける環境は、生命が安定して存在することができる環境とは考え難い。

 長沼・井田(2014)[7]は、さらにM型星(赤色矮星)のハビタブルゾーン内の惑星の環境について、M型星のハビタブルゾーン内の惑星は中心星に近いため潮汐が強く、潮汐ロックによっていつも同じ面を中心星に向けるため、昼側と夜側で寒暖差が激しく、加えて強い風が吹いている可能性を指摘した。このようにプロキシマbの表面は過酷な環境と考えられ、高等生命の安定した生育は難しいのではないかと結論付けられる。

 長沼・井田は、同時にトワイライトゾーン[8]の生命居住可能性について、トワイライトゾーンでは、エネルギー源となる光が供給され、紫外線やX線も弱くなり生命居住の可能性があると言及した。プロキシマbは過酷な地表環境ではあるが、トワイライトゾーンならば、放射線にある程度耐性を持った単細胞生物・微生物が存在する可能性は考えられる。ただし、居住可能範囲が狭く、また居住可能範囲の外は過酷な環境であるため、それらが高等生命に進化する可能性は低いと推測する。

 

 

第3章 プロキシマbにおける、知的生命の存在可能性

本章では、第2章の内容に踏み込み、プロキシマbにおいて、知的生命が進化することができるのか、その可能性について論じる。

 

知的生命について、ドーキンス(1976)の提唱した「ミーム[9]に沿って、ここでは「遺伝子だけでなく、文化によっても情報を伝えることができる生物」と定義する。

長沼・井田(2014)は、酸素呼吸(好気呼吸)は無酸素呼吸(嫌気呼吸)と比べエネルギーの発生量が10倍以上大きく、これが多細胞生物を進化させ、感覚器官や処理器官を発達させたため、知性には酸素が必要と結論づけた[10]。この結論に基づき、ここでは知的生命の発生条件を、生命存在の基本条件に加え、酸素があることとする。

 

原始地球の大気には、酸素はほとんど存在していなかった。地球では、20~25憶年前にシアノバクテリア[11]光合成によって大量の酸素が発生し、大気中の酸素濃度が爆発的に上昇した。これを一般に「大酸化イベント」や「大酸化事件」と呼ぶ。この大酸化イベント以降、嫌気性の生物は絶滅し、好気性の生物が進化を遂げたとされる。

このように、好気性生物、ひいては知的生命の存在には、大気中に一定程度の酸素が存在していることが条件となると推測される。また大気中に一定の酸素が存在する場合、元から大気に酸素が存在していた場合と、地球のように元々酸素は存在しなかったが、後天的な環境変化によって酸素が大気に存在するようになった場合の2通りが考えられる。そしてどちらの場合でも、その酸素が安定して維持されるためには、代謝によって酸素を排出する独立栄養生物、すなわち植物の存在が欠かせないだろう。

プロキシマbの場合、第2章で述べた通り、プロキシマのフレアや強い紫外線の影響によって、大気は剥ぎ取られているものと推測され、元々大気に酸素が十分に存在する可能性は低いとみられる。さらに、強い放射線照射のため植物の生育が難しく、十分な酸素が安定して供給される可能性は薄い。現在のところ、プロキシマbの大気中に十分な量の酸素は存在せず、従って知的生命の存在可能性もほとんどないと結論付けることができる。

 

 

 

第4章 結論と展望

 本章では、結論と今後の展望について述べる。

 

 結論として、プロキシマbには生命の存在可能性はあるものの、実際にはプロキシマの強烈なフレアや潮汐ロックの影響などによって、生命が安定して存在することは難しいものと考えられる。存在したとしても、放射線に耐性のある微生物や単細胞生物に限定され、複雑な構造の生物の存在の可能性は低い。酸素が安定して供給されないため、知的生命の存在可能性も、ほぼ皆無と言える。

 プロキシマはまだ観測途上で、不明な点が数多くある。今後、さらなる観測や分析の積み重ねによって、プロキシマのより詳細な情報が明らかとなるだろう。またプロキシマbの生命居住可能性についてより複雑な検討が行われることは、単にプロキシマbの生命居住可能性のみならず、他の系外天体の生命居住可能性にも役立つことが期待される。そこで得られたデータや知見が今後の系外惑星研究、また系外衛星の研究に大いに役立つことを願って、展望とする。

 

 

おわりに

 本稿は、太陽の隣の恒星系の惑星であるプロキシマbの、生命存在の可能性について検討した。プロキシマはホットジュピターをはじめとする異形の惑星を持つわけではないが、太陽から一番近い恒星という点で、人類の関心は高い。プロキシマを含むケンタウルス座α星に超小型探査機を送るという計画(ブレークスルー・スターショット計画)もある。この計画は技術面の問題で当分は実現不可能であるが、好奇心を刺激する計画であることは間違いない。隣の星がどんな姿をしているか、見てみたいものである。

系外惑星の生命存在についての議論が活発に行われる一方で、系外衛星に生命が存在できる可能性も考えられる。木星の衛星ガニメデとエウロパには潮汐加熱によって内部海が存在することがほぼ確実視されている。特にエウロパは大気を持ち、ミネラルと酸素が供給される可能性も考えられている。土星の衛星エンゲラドスは、液体の水、有機物、熱源といった生命に重要な要素を併せ持っている。同じく土星の衛星タイタンは、濃密な窒素大気を持ち、地表面では液体メタンが地球の水と同じように循環している。長沼・井田(2014)はこの循環について、長期間安定して継続すれば生命の住む環境となりえると述べた[12]。もはやハビタブルである条件に惑星である必要はない。観測技術の進歩により、系外衛星も観測できるようになると、この分野の議論もより活発になるだろう。そして、多角的・学際的な生命存在の検討が行えると、今後の探査計画にも、その研究がより生かせるのではないかと考える。

 今回は、地球型(炭素型)の生命を前提に論じたが、宇宙は広大で、生命全てが地球型というのも、それはそれで考えにくい。その環境に応じた進化をして、我々には想像もつかないような生命維持システムを構築しているかもしれない。今はまだ、それは学術的に論じられるほど十分なデータがなく、その議論はただの夢物語に過ぎないのだが、いつか地球外生命が発見された暁には、果たして我々は普遍なのか特殊なのか、その答が出るのだろうか。今後の研究が楽しみである。

 

参考文献・脚注

井田茂 『系外惑星と太陽系』 岩波新書 2017年2月出版

長沼毅・井田茂 『地球外生命』 岩波新書 2014年1月出版

阿部豊 『生命の星の条件を探る』 文芸春秋 2015年8月出版

 

The Guardian国際版 2020.12.18 https://www.theguardian.com/science/2020/dec/18/scientists-looking-for-aliens-investigate-radio-beam-from-nearby-star (最終閲覧日 2021.01.09)

 

MIT Technology Review 2020.01.17

 https://www.technologyreview.jp/nl/there-might-be-another-exoplanet-hiding-around-our-closest-star/ (最終閲覧日 2021.01.11)

 

アルマ望遠鏡 2018.02.26

 https://alma-telescope.jp/news/proxima-201802 (最終閲覧日2021.01.13)

 

[1] The Guardian国際版 2020.12.18 https://www.theguardian.com/science/2020/dec/18/scientists-looking-for-aliens-investigate-radio-beam-from-nearby-star より(最終閲覧日 2021.01.09)

[2] MIT Technology Review 2020.01.17 https://www.technologyreview.jp/nl/there-might-be-another-exoplanet-hiding-around-our-closest-star/より(最終閲覧日2021.01.11)

[3] 阿部豊(2015)「生命の星の条件を探る」

[4] 大きな星の周りを公転する天体が、その母天体の重力によって引っ張られて変形することを潮汐変形という。母天体が十分に大きい場合、潮汐変形によって天体内部で摩擦熱が発生する。これが潮汐加熱である。

[5] ここでの古典的標準モデルは、井田茂(2017)「系外惑星と太陽系」に拠った。

[6] アルマ望遠鏡 2018.02.26  https://alma-telescope.jp/news/proxima-201802 より(最終閲覧日2021.01.13)

[7] 長沼毅・井田茂(2014)「地球外生命」

[8] 昼面と夜面の境界範囲。

[9] Richard Dawkins(1976) 「The Selfish Gene」より

[10] 長沼毅・井田茂(2014)「地球外生命」

[11] 海中の光合成バクテリア

[12] 長沼毅・井田茂(2014)「地球外生命」

 

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